中島みゆきさんの名曲「糸」。多くのアーティストがカバーしていると言います。
私はサビの一部だけ聞いたことがありました。「経の糸はあなた。横の糸は私。」ここだけ、歌詞を覚えていました。この部分を聴いたときに、「経糸と横糸があるんだったら布帛、織物だ。編み物ではないんだな」とぼんやりと思っていたことを覚えています。
最近になり、年末年始の音楽番組で「糸」の曲を聴く機会がありました。その時に他の部分の歌詞を初めて知りました。きちんと経糸と横糸で織りなす布で、人を温めたり癒したりするということが書いてありました。心に響く内容でこれが他の歌手にも歌い継がれている理由なんだなと思いました。が一方では織物であることが明確に書かれてあり、良かったと安堵しました。
洋服を構成する素材はその作り方によって大きく2つに大別されます。それが「織物」と「編み物」です。
曲にある通り、経糸を横糸を交互に渡しながら織り上げているものが布帛・生地となり、反物として完成します。鶴の恩返しで鶴が夜に織物を織りあげている姿が描かれていますが、原型はあの織機です。経糸と横糸を交互に糸を渡す平織りがベースですが、ギャバやデニムで使われる綾織りなどが多く出ています。この他にも織組織を使って柄を出したもの、例えばヘリンボーンやバーズアイなど、複雑な織組織が可能になっています。この織物を、型紙に沿って切断し縫製すると洋服が出来上がります。
一方で編み物は、一本の糸をループを作りその中に糸を通して編み上げていくものです。セーターを作るときは、前後の身頃や袖を別々に編み上げて、肩で目を拾って糸を通して繋げるリンキングという技術で、袖、衿を繋げていきます。編み物は織物のように裁断して縫製することが出来ません。セーターを作るために型紙通りに切って縫い合わせようとしても、編み上げたものがばらばらになってしまいます。
織物と編み物、についてその違いをきちんと理解することは、アパレルに携わるうえでの基本です。ですので経糸と横糸によって生まれるものが何なのか、については過剰に反応してしまいます。テキスタイルは本当にその作り方、糸の原料、糸の製法、織り方・編み方、染め方のどれをとっても、深い世界です。とても楽しい世界です。
素敵な曲をも「生地や編み物」へと思考を傾けてしまうのは悪い癖だと思いますが、一生抜けそうにありません。